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札幌高等裁判所 昭和35年(ネ)266号 判決 1961年11月20日

控訴人 若園藤治郎

被控訴人 一鱗帯広魚菜卸売市場株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人は控訴人に対し金七十二万円を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

控訴代理人において、

一、本訴の請求原因は、被控訴会社の過失に因り控訴人が昭和三二年三月分から昭和三三年二月分までの一一箇月間、被控訴会社の代表取締役副社長としての報酬金毎月金七万円、合計金七十七万円から控訴人が受領した内金五万円を控除する残金七十二万円に相当する利益を得べきであつたのにこれを喪失したので、右利益に相当する損害金七十二万円の賠償を求めるにある。そうして、被控訴会社の右過失とは、その代表取締役社長相沢万三が昭和三二年三月三日の取締役会において控訴人の代表取締役及び常任副社長たる地位を解任する決議が無効であるのに、これを不注意に因つて有効なものであると誤信した上、控訴人に支給すべき前記報酬金の支払を停止した事実を指示するものであつて、被控訴会社の代表取締役相沢万三の右過失は、被控訴会社の機関としての過失であるから、被控訴会社の過失と同視すべきものである。

二、被控訴人の後記一及び二の主張事実中、被控訴会社の定款及び取締役会規則として被控訴人主張のような規定が存在すること並びに昭和三二年三月三日午前一一時半頃及び正午頃の二回に被控訴会社から控訴人宅に、同日午後一時から取締役会を開催する旨の通知があつたことは認めるが、その余の事実を否認する。

三、仮りに、昭和三二年三月三日の取締役会がその前日に開かれた取締役会を続行したものであるとしても、取締役会の続会なるものは商法上これを認むべき明文がなく、しかも、商法第二五九条の三の規定によれば、取締役会は取締役全員の同意があるときは招集の手続を経ないで開き得るも、その反対解釈として、取締役全員の同意がなくては招集の手続を省略し得ないものであるから、昭和三二年三月三日の取締役会を前日の続会として開催する場合にも取締役全員の同意を要するものである。然るに、控訴人は、昭和三二年三月二日の取締役会には出席したがその会議を続行すべき旨の決議に加わらずして退席し、又、翌三日には控訴人宅を不在にしていたから控訴会社から右続会の通知を受領することができなかつたものである。それゆえ、三月三日の取締役会が開催されたことは控訴人において知ることのできなかつたものであり、控訴人の代表取締役副社長たる地位は、控訴人が知らない間に馘首せられたものであつて、右続会における決議は無効であるといわなければならない。

と、陳述し、

被控訴代理人において、

一、昭和三二年三月三日の取締役会は、適法に開催された同年三月二日の取締役会の続会であるから、これにつき格段の招集手続を経ないでもその決議は有効である。即ち、右決議の成立過程をみるに、被控訴会社は、昭和三二年二月一〇全取締役出席の下に取締役会を開催したが、その会議において同年二月二八日に取締役会を招集すべきことを決議し、その決議に基き、同年二月二八日取締役会を開催したところ、その会議において控訴人外一名に対する業務執行の担当を続けしむべきや否やの議案が上程されたのであるが、時既に正午を経過せんとしたので、出席全取締役同意の下に、右取締役会を同年三月二日午後一時に続行する旨を決議した。次いで、同年三月二日午後一時、継続取締役会を開催したところ、控訴人から従来の言動につき陳謝の意を表明されたので、その会議の休けい時間中に、秋山取締役等から控訴人に対して自発的に代表取締役を辞任するよう勧告し、控訴人は右勧告に対して翌三月三日正午までに諾否を回答する旨を約して帰宅した。よつて、同日の取締役会は控訴人の意嚮を尊重して翌三日午後一時に続行する旨決議し、次いで、昭和三二年二月三日午後一時、右取締役会を総続して前日の議案につき審議を続行した上、前記解任の決議をしたものである。従つて、右取締役会の決議には何等違法な瑕疵はない。

二、仮りに、昭和三二年三月三日の取締役会が同年三月二日の取締役会を継続したものではないとしても、前者は適法な招集手続を経て開催されたものであるから、その決議は有効である。即ち、被控訴会社の定款によると、「取締役会の招集通知は各取締役に対し会日から三日以前に之れを発するものとする。」(第二三条)こと及び「取締役会に関する事項については取締役会で定める取締役会規則による。」(第二四条第二項)旨規定し、右定款の規定に基き、被控訴会社取締役会規則第五条には、「取締役会招集の通知は各取締役に対し会日より三日前に発する。但し緊急の必要あるときはこの期間を短縮することがある。」旨を定めているものであるが、昭和三二年三月三日の取締役会は控訴人の代表取締役解任に関する事項を議題とするもので、日日の業務執行上緊急を要するものであつたから、規則所定の取締役会招集の通知期間を短縮することができたものである。よつて、被控訴会社は昭和三二年三月二日の取締役会において、控訴人を除く他の取締役には翌三日午後一時に取締役会を招集すべき旨を通知し、控訴人に対しては、三月三日午前中二回にわたり、右招集通知をしたものであるから、昭和三二年三月三日の取締役会は適法に開催されたものといわなければならない。

と陳述した外、いずれも原判決事実欄に摘示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠関係として、

控訴代理人は、甲第一号証の一乃至六、甲第二乃至第五号証を提出し、原審証人三宅よしこ、神代利作、上徳善司及び岡部義雄の各証言並びに原審及び当審における控訴本人の各尋問結果を援用し、乙号各証の成立を認め、乙第一号証の一、二を利益に援用する、と陳述し、

被控訴代理人は、乙第一号証の一、二、第二号証の一乃至三、第三乃至第五号証を提出し、原審証人長谷川幸作、当審証人岡部義雄及び長谷川幸作の各証言を援用し、甲号各証の成立を認める、と陳述した。

理由

控訴人が昭和三一年二月二〇日、被控訴会社の株主総会において、被控訴会社の取締役に選任され、続いて行われた被控訴会社の取締役会において、代表取締役及び副社長に選出され、その報酬月額金七万円と定められ(報酬算定にあたり常勤の代表取締役であることを条件とするものであるかどうかの点はしばらくおく。)、爾来、被控訴会社から毎月金七万円の報酬金を支給されていたこと並びに控訴人が昭和三二年三月三日の取締役会において、代表取締役及び常任副社長の地位を解任されたことは当事者間に争いがない。

控訴人は、右取締役会は被控訴会社の定款第二三条の規定に従い、各取締役に対し、開催日より三日前に招集通知を発すべきであつたのに、その招集通知をしなかつたものであるから違法であり、従つてその会議においてなした前記解任決議は無効である旨主張するのでこの点を判断するに、被控訴会社の定款第二三条に控訴人主張のような定めがあること並びに被控訴会社が昭和三二年三月三日の取締役会を開催するにつき、その開催の日から三日前に各取締役会に対して招集通知を発しなかつたことは当事者間に争いないが、しかし、ひるがえつて、右決議の成立過程をみるに、成立に争いのない乙第二号証の一乃至三、第四号証、原審証人長谷川幸作、岡部義雄、当審証人長谷川幸作及び岡部義雄の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴会社は、昭和三二年二月一〇日全取締役出席の下に取締役会を開催したが、その会議において同年二月二八日に取締役会を招集すべきことを決議し、その決議に基き、同年二月二八日取締役会を開催したところ、その会議において控訴人外一名に対する業務執行の担当を続けしむべきや否やの議案が上程されたけれども、時既に正午を経過せんとしたので、出席全取締役同意の下に、右取締役会を同年三月二日午後一時に続行する旨を決議したこと、次いで、同年三月二日午後一時、継続取締役会を開催したところ、控訴人から従来の言動につき陳謝の意を表明したので、その会議の休けい時間中に、秋山取締役等から控訴人に対して自発的に代表取締役を辞任するよう勧告したところ、控訴人は右勧告に対して翌三月三日正午までに諾否を回答する旨を約して帰宅したこと、よつて、同日の取締役会は控訴人の右諾否の回答をまつて翌三日午後一時に会議を続行する旨出席取締役の全員一致する意見を以つて決議し、次いで、昭和三二年三月三日午前中被控訴会社と同一市内に居住する控訴人に対し二回にわたり同日午後一時から取締役会を開催する旨の通知をし(この事実は当事者間に争いがない)、同日午後一時、右取締役会を継読して前日の議案につき審議を続行した上、前示解任の決議をした事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。そうとすると、昭和三二年三月三日の取締役会は、適法に開催された同年三月二日の取締役会の続会であつて、その審議の対象たる議案の同一性を維持するものと認むべきであるから、これにつき格段の招集手続を経ないでもその決議は有効であるといわなければならない。

控訴人は、取締役会を続行するにも取締役全員の同意がなくてはその招集通知を省略し得ない旨主張するので、更にこの点を判断するに、なるほど、取締役会の続会については、商法上の明文を欠くには違いないが、しかし、いわゆる続会なる観念は、多数決の原理に立脚する会議の本質に基くものであるから、取締役会についてもその審議の対象たる議案が前後同一のものである限り、出席取締役全員の同意があるときは、続会のための招集手続を経ないでもその会議の続行をなし得るものと解すべきである。けだし、もし、取締役会について取締役全員の同意がなければその会議の続行をなし得ないものとすれば、如何なる事情があるにせよ、全取締役のうち一人でも欠席したものがある限り、法定の招集手続を経なければ同一議案を審議するための取締役会を開催し得ないことになり、このことは、会社の業務執行機関たる取締役会の機能を不当に拘束するからである。そうして、商法第二五九条の三の規定は、新に又は続行の場合でも続行するかのとしないで会議を招集する場合の規定であつて、審議の対象たる議案が前後同一性を維持するものである限り、その会議を続行する場合には適用すべきものではないと解するのが相当である。それゆえ、右説示と異なる見地に立つ控訴人の前記主張は、とうていこれを採用することができない。

果して、然らば、被控訴会社が、昭和三二年三月三日の取締役会において控訴人の代表取締役及び常任副社長たる地位を解任する旨の決議をなしたのは、適法且つ有効であるとみるべきであるから、右決議が違法であるとの主張を前提とする控訴人の本訴請求は、爾余の争点を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 臼居直道 安久津武人)

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